私は昔から飽きやすい性質で、一つの事を極める前に中途半端に満足して完結しない子供でした。
大人になった今、仕事以外の事に関しては今でも極めた事がありません。
これではダメな大人になる、と思った私は一つの事をやり遂げようと決心しました。
『ボールペンのインクが無くなるまで使い続ける』
これが出来れば私も一つ自信が持てるのではないか。
そう思い、その日から100円で5本入りだった一本のボールペンを使い続ける事にしました。
雨の日も、風の日も、嵐の日でさえ!そのボールペンを使い続けました。お客様の所へ行き、そのまま忘れて帰った時にも、わざわざ途中で引き返し取りに行ったボールペン。挟む箇所がバキっと折れても構わず使い続けたボールペン。握るラバーの部分がだんだんと摺れてきたボールペン。ただただひたすらその一本を使い続けました。使い切るために。
なかなか減らないインク。
でも気付くといつの間にかその量は半分を超え、日を追う毎に黒い筋が減っていきます。
そして遂にインクが先っぽの黒いラバーに隠れて見えなくなりました。
ここまで来るとあとは数センチ。長かったボールペンとももうすぐお別れの時です。
使い切るという志を掲げて足掛け2年。初志貫徹という言葉が胸をよぎります。
そしていよいよ終わりが見えてきた約4ヶ月前。
ボールペンが姿を消しました。
あれだけ無くさないように気をつけていたのに。
どこで無くしたのか?無くなる前までの自分の行動を反芻しますが、どこで無くしたのか覚えがありません。あのお客様の所へ行った時か?それともあっちのお客様との打ち合わせの時に忘れたのか?必死で記憶を探りますが、全部が曖昧で自信がありません。
ここまで来たらお別れをするのが辛い。そんな思いでボールペンは去ったのか…。それはまるで死期を悟った猫が主人の前から姿を消すが如く。
今日、そのボールペンが社長の机にゴロっと転がってるのを見た時の殺意ったら、もう。
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